傾斜地に建つ小さな住宅の計画である。敷地は愛知県日進市にあり、町全体が丘状で起伏に富んだエリアである。敷地の状況を受け、クライアントからの要望もとてもシンプルで「家のなかのどこにいても遠くの景色を楽しみたい」、ということが中心だった。

敷地は平たい場所が2mほどの幅しかなく、それ以外はすべて斜めのあたかも崖のような敷地だった。できるだけ元の地形を活かしたいと考え、その斜めの地面を最低限掘ることで生活の場をつくろうと考えた。自然の形に呼応するような不定形さを持った、あくまでも地形に応答する形でできた空間が敷地の魅力を引き出せると考えた。そのため、前面道路の蛇行した形状と傾斜した地面をそのまま住居全体の形を決めるテンプレートにした。崖の上に建てる住宅、というよりも、崖にある窪みや隆起から生まれる小屋のような、あるいは、洞窟のような住処を目指した。そして、掘ることによって作られた崖のくぼみにテントのような、あるいは船の帆のような外皮をかけた。

構造的には、多面体のような安定して閉じた系が崖のくぼみにアンカーされることで開かれた系になる、というのが当初から一貫したモデルである。地面を掘って作られた生活の場の空中に、平らでまっすぐな水平面をかけた。土に張り付き囲われた生活の中では地面から切り離された床が、時には必要なのではないかと考えたのだった。この床面上のスペースはロフトのようなもので、さしあたって割り当てられている用途はないが、将来的には居室になるであろう。また、屋根/壁/床の分節の境界が曖昧なものになることを目指して、この床スラブの厚みにこだわり、仕上げまで含めて270mmと壁と同程度の厚みでおさまっている。

住居全体にわたり、階の区画や間仕切などの大きなしっかりした分節を極力なくした。そして、ガランとした空間のなかにあるデッキとそのレベル差によって抜ける視線が外の風景と繋がることを大切にした。また、このスキップフロアの空間が、敷地周辺の自然環境と同じように直截的に身体に呼びかけるような住宅であってほしいと考えている。

K HOUSE

所在地|愛知県長久手町
主要用途|専用住宅
設計監理|吉村昭範+吉村真基/D.I.G Architects
構造設計|名和研二/なわけんジム
施工|長瀬組
photo|坂下智広